リブセンス社長村上太一さん「会社が公のものになって」 (3)

副業のヒント

リブセンス社長、村上太一さんのBP社のインタビューですが、今回で3回目です。

今回は、インタビュアーや編集者の方が「基礎」になっているものを、少々意地悪めというか、読者目線で聞いてくださっています。

これから起業される方には、指針となるものがこの村上さんのお答えの中にでてくるかもしれません。

編集Y:起業と個人的な「お金」との意識について伺いましたが、「金銭欲」よりも「効率欲」、村上さんからお聞きできたのは、「無駄遣いをしたくない」という意識を感じる言葉ばかりでした。アラフィフ世代の我々からは、すごく世代ギャップを感じます。

古市:お金をこれくらいためたら仕事を辞めたい、という気持ちも別にないですよね?

村上:ないですね。本当に遠い将来、迷惑がかかるほど判断能力が鈍ったら、辞めなきゃまずいと思いますが。

古市:そうならない限りはずっと仕事を続けたいし、それはお金をためるためでもない。ただ、仕事が好き、という。

村上:そういう感じです。

古市:そうなんですね。

村上:それから、仕事人間だった祖父が仕事を辞めてすぐに亡くなったんです。バリバリ仕事しながら、大変そうだった時もあったし、それ相応のプレッシャーもあったはずですが、辞めた途端、死んじゃった。不思議なものですよね。

古市:そうした様子を見ているから、出来る限り、仕事はずっと続けたいと?

村上太一(むらかみ・たいち)
リブセンス社長。東京出身。小学生のころに起業を決意、高校在学中に準備を開始し簿記二級、情報処理技術者試験などを取得。早稲田大学政治経済学部在学中、リブセンスを設立。求人ウェブサイト「ジョブセンス 」を立ち上げる。同社を創業2年で黒字化させ、当時史上最年少の25歳1か月で東証マザーズに上場を果たした。

村上:というのも、あります。

古市:でも逆に、おじいちゃんを反面教師に、もっと適当にだらっと働いて、ふだんからそんなに頑張らないという選択肢もあったと思いますが。

村上:いや、うーん、どうなんですかねえ。

古市:村上さん自身、昔からだらっとしないで頑張る人生を生きてきたから、それはないですか。

村上:ないです。頑張らない、という選択肢はないです。だけど、なぜ頑張るんだろう?という問いは、やっぱりありますよ。

古市:人から見たら、そう思えちゃいますよ。なぜ村上さんはそこまで頑張るんだろう、と。

頑張ることは、デフォルトです
村上:頑張る理由って何だ? これはよくあるテーマですよね。その問いが存在することは理解できます。

古市憲寿さん(プロフィールはこちら )

古市:でも、それがもはや自分の中で問いにすらならないほど、頑張ることがデフォルトで初期値になっているんでしょうか。人から見たら、すごく頑張っているとしか思えないけれど、村上さん自身にとっては「これが普通だよね」という感じ。

村上:たとえば、学生時代、テストの前に相当追い込んで勉強した時「俺はなぜこれをやるんだろう。なぜ勉強して、なぜ頑張らなきゃいけないんだろう」と思ったことがあります。

その時、「うわー、頑張らなきゃ」と言いながら、頑張ることを自分自身が選択している、という意識を強く持ったんです。自分で選択したからにはやらなければならない。

編:そこまで割り切れるものですか…。先々の幸せとか、それこそ「使い切れないお金が手に入る」とかで、そこまでの過程と思ってしんどさを乗り切るものでは?

村上:人間は現状維持したい生き物ですよね。自分のコンフォートゾーンを維持したいなら、一度あるモードに入ったらそれを続けることが、むしろ自分自身の幸せだったりするんじゃないでしょうか。

やっぱり、一度テストで良い点をとったらうれしいから維持したい。その思いで頑張るわけですが、それでも単に自分は現状維持しているだけだかな、と思いましたね。

古市:そうなると、早々と上場までしてしまったリブセンスのこの先って、何があるんでしょうか。

村上:上場については、上場でサービスが変わったわけではないですから、ゴールではありません。まだまだ当社のサービスを使ってくださるユーザーは少ないと思っていますし、これからです。上場で自分が何かを得た、という感覚は特にないですね。

ただ、なんらかの価値が上場で生まれたとすれば「これからは若者が会社をやるんだ」という、社会に対する前向きなインパクトという価値を少しは提供できたかもしれません。

古市:それは、社会にポジティブなインパクトを与えたい、という意味ですか? 究極的にはどういうことでしょうか。

村上:そうですね。ポジティブなインパクトを与えたい。社会にとって意味あるものをつくりたいです。

古市:村上さん個人にとって「生きる意味」を残したいのか、社会のために何か資することをしたいのか。

つまり、社会貢献の意味合いが強いのか。もちろん、これらはすっぱりと切り分けて考えられるものではありませんが……。いかがですか。

「君はたまたまうまくいっただけだ」
村上:自分の「生きる意味」から入っていったのは確かですが、それが徐々に変わりつつある、という感じかもしれません。

ある人に「村上くん、君は頑張ったけれど、それも確率の話でね、たまたまうまくいっただけなんだよ」と言われました。確かにそうかもしれない。日本国という生態系で全体を見た時、こういう教育でこういう国作りをしていったら一定の割合で僕のような人間が出てきた、ということです。

新卒を採用して育てると、育ててくれた会社を辞めづらくなるという人が多い。それはちょっと恩返しのような、人間、誰しも持っている感情だろうと思います。会社が従業員を大切にすれば、従業員も会社を大切に思う。

そういう関係を日本全体で考えると、日本という国にしっかりやってもらって、幸運な確率で起業して上場できたのならば、私はなんらかのミッションを背負っているんじゃないか、と。

古市:そうした考え方になったのはいつ頃ですか。

村上:本当に最近です。上場以降です。

古市:会社が公のものになって、ご自身の考えもどんどん変わってきた。

村上:はい。「最年少」の上場ということで、見られる立場になりましたし。

古市:メディアにもずいぶんとりあげられますもんね。

村上:ですから、変なことをして「ダメだよね」の例になってしまったら後が続かなくなります。それと、せっかく日本国の確率の中で運よく生まれた何かを台なしにしちゃったら、申し訳じゃないですか。

古市:上場企業のトップの中には「注目を浴びたら好きなことが出来なくなった」と言う人もいますけれど、村上さんはそんな不満はないですか。

村上:悪いことしていませんから見られても別に構いませんが、ちょっと窮屈さは感じます。昨日も社員と一緒に普通にご飯を食べていたら、見知らぬ男性に「村上さんですか」と声をかけられて「声が聞こえているのかな、ちょっと嫌だな」と思っちゃったりして。

正直言えば、いろいろと面倒くさいなということはあります。でも、何かを得れば何かを失うわけですからね。

古市:何かを得て「何者」かになるということはそういうことである、と引き受けた?

村上:そうですね。

古市:将来の不安はありますか。

村上:会社がうまくいかなくなると考える時はあります。順調なまま、ずっと成長し続けるとは限らないから。

いつだったか祖母に「会社というのは、いい時も悪い時もあるから、いい時にたんまり蓄えておきなさい」と言われました。今も健在の祖父を支えてきた祖母に「おじいちゃんとおばあちゃんの会社は、いい時にちょっと過剰な投資をして苦しんだ」と。調子に乗っていると、悪い時期がやってくるから気をつけなさい、というアドバイスです。

編:おおお。

古市:本当にまっとうな会社経営のアドバイスですね。

ゼロ年代に「かっこよさ」が再定義された?
古市:先ほど、いろいろな経営者と交流があるとおっしゃっていましたが、たとえばここ10~15年前、それこそ堀江貴文さんが大きな注目を浴びて、ITバブルや起業バブルといったブームが起こりましたよね。当時、村上さんはどのような思いでそうした現象を眺めていましたか。

村上:「ITバブル」という言葉を知らなかったです。バブルというのは市場面からみた現象で、どちらかというとサービス面を見るほうが強かったから、バブルがどうした、というのは意識していなかったです。

古市:そうなんですか。堀江さんが注目を浴びて、さらに逮捕されましたが、当時は?

村上:堀江さん逮捕の年が、私が会社を興した年です。2006年ですから、早稲田大学の1年生でした。

古市:あ、そうか。それなら、もう「別物」という感じで特に何も思わなかったですか。

村上:別物といえばそうですが、既存の体制に挑戦する姿を見て、「かっこいいな」と思いましたけどね。起業家は新しいことに挑戦する役割と私は思っていますから。

古市:そんな村上さんは、今、何に対してチャレンジしていますか。

村上:「当たり前をつくる」こと。既存の「当たり前」に対して、その当たり前の変革にチャレンジしているつもりです。

村上:例えば「ジョブセンス」は掲載広告でお金をいただくという従来の求人広告を、成功報酬を企業からもらい、ユーザーにはお祝い金を届けるという、新しい「当たり前」の仕組みを作って、おかげさまで成功しました。

同じように、新しい「当たり前」をつくろうとチャレンジしている事業がありますし、他にもビジネスプランを持っています。

古市:堀江さんは「壊す」起業家だったと思いますが、村上さん世代の若い起業家は社会起業家と呼ばれるビジネスモデルを目指す人が多いですし、社会に良いことをしようという思いが、とても強い気がするんです。なぜそんなに社会に良いことをしたい、と思えるんですか。

村上:比較的満たされた世代であるというのが、きっと理由のひとつだろうと思いますね。バブルは終わったけれど、そこまでお金に困っているわけでもなく。

編:満たされていても起業するというところが、もう分からないかも。

村上:昔は「かっこいい」の象徴が、すごい豪邸に住んで、億万長者がヘリで旅するみたいなイメージ(笑)。でも、私の世代になると、それが「かっこいい」とテレビなどで取り上げなくなっていたのかもしれません。メディアが出すメッセージや道徳の教科書に書かれている内容は、時代によって少しずつ変わっていると思う。そうした社会風潮と教育に影響は少なからず、私も受けてきたんじゃないでしょうか。

古市:そうであっても、村上さんほどの資産を持ったら、一度くらい豪邸に住みたい、スポーツカーに乗りたい、といった自分の経験値を増やしたいという思いはないですか。

編:古市さん、いい質問です!

贅沢も体験はしたい。でも生活に取り入れたいわけじゃない
村上:いや、それはありますよ。私は好奇心旺盛なので1回ぐらい、もしかしたら住むかもしれないです。でも、六本木ヒルズや東京ミッドタウンの部屋に入ってみたら……。

古市:入ってみた? 入居されたことがあるんですか。

村上:あ、ホームパーティに呼ばれて、中を見てみたことがあるという意味です。

古市:ああ、物理的に「入った」(笑)。それでどう思われましたか。

村上:実際に住んでみなければわからないことはあると思いますが、見学した限りでは、「住んでみたい」とは思わなかったです。

古市:そういう暮らしは優先順位の第一ではない。それよりもしたいことはありますか。

村上:好奇心はありますから、いろいろ体験したいです。そうだ、体験する、という感覚ですなんですよね。生活に取り入れる、というよりも。

古市:なるほど。

村上:いろいろ体験して、いろいろな視点を手に入れたいです。

古市:それは僕もすごくよくわかります。

編:うーん、物欲じゃなくて好奇心ってことですか…。

古市:この本が出版されてから約一年が経ちましたが、変わったことはありますか。先ほど、部屋が狭くなったことはお聞きしましたけど(笑)。

村上:新しい体験にチャレンジする機会が増えました。例えば、先々週は釣りをしました。

古市:釣りですか。どういうメンバーで行ったんですか。

村上:起業家の集まりですね。4人で行きました。

古市:本当に起業家同士の横のつながりで動いているんですね。今、ビジネスの相談は誰にしますか。あるいは、誰にもしない?

村上:弊社の役員陣と相談したり、ブレストしたりします。

古市:一人で走っているイメージで仕事しているのか、もともとのメンバーと一緒に走っているイメージか、どんな感じですか。

村上:最近は、私が走らなくても進んでいく感じです。優秀なメンバーが揃ってきましたから、むしろ自分が走らないほうが速く走れているな、と感じる時も場合によってあります。私が意思決定に入りすぎると、ジャッジからアウトプットまでのスピードが遅れるんです。

古市:初めの頃は、自分でなんでもチェックしたいタイプだったんですか。

村上:チェックしたいタイプですし、しないとダメでした。全員学生でしたからね。なんて、私も学生だったんですが(笑)。でも、優秀なメンバーがいる現在は、いちいち私が入るよりも良いアウトプットが出る体制になりました。

大企業の仕組みは「島耕作」で学びました
古市:学生で起業するのは長所も短所もあると思いますが、振り返ってみて、学生で起業してしまったがゆえのネガティブな一面はありますか。

村上:大企業の組織がどのようにまわっているか、社内の仕組み、常識がどうかというあたりが、リアルに感じ取れないことです。

それから、私の人脈は社長の知り合いが多く、従業員の知り合いがちょっと少な目です。元同僚、といった知り合いがいないわけですから。

元同僚と会社を興す、というパターン、結構ありますよね。あるいは、同僚が起業してうまくいったところで、元同僚が入社するとか。プレーヤーとしてやっていた時期が短いので、そういう人脈が弱いと思います。

古市:ああ、なるほど。

村上:大企業の仕組みは本当に『島耕作』などを読んで勉強しています(笑)。

古市:面白いですよね。今、会長編になっていますが。

村上:私はヤングから部長、役員ぐらいまでが参考になりました。あれは本当に学べます(笑)。

古市:創業時代は給料もなかったということですが、それは学生だからこそ出来たスタイルでもありますよね。

村上:そうですね。学生だからサークル的で好きでやっている感じもありますし、リスクは意外と少ない。私は学生起業、お勧めしますよ。

古市:確かに大人になっていきなり起業、となると難しい条件が出てきますよね。給料がなくて、先も見えなくて、なんて。

村上:そうなんですよ。ご家族とかいらっしゃったら、なかなか難しい部分があると思います。

古市:そう考えると、若いうちに起業するなら大学時代に、というのは選択肢のひとつとして確かにアリですね。

村上:ただし、その一方でノウハウがないと厳しいですから、相当学習は必要です。その学習は体験から学べるタイプでないときついと思います。

人には、懇切丁寧に教えられて学ぶタイプと体験から学ぶタイプがいると思いますが、私はどちらかというと、体験から学ぶタイプで、教えられるのが少し苦手でした。そうした私の資質も学生起業にフィットしたかな、と。

古市:営業センスを身につけたのも、いろいろな会社に飛び込んでいったからですもんね。

村上:本を読んで、自ら実践して、状況をよく見て。

今の大学生はさらにレベルが上がっている
古市:しかし、大学生でよくそこまでやろうと思いますよね……。

村上:今の大学生のほうがすごいですよ。面接とかで会うと「こいつすげえな」と思いますもん。プログラミングできます、サービス作りました、なんて学生がいっぱいいる。私の学生時代とは違います。

古市:全体のレベルが上がっていますか。

村上:上がっています。それと、情報が広くいきわたるようになっています。

古市:情報が流通して、精度も良くなっているから、ますますそういう人が増えるのかもしれないですね。

(4)に続きます

2014年