リブセンス村上太一社長「なぜ起業するのか」(2)

副業のヒント

私自身が起業のビジネスモデルを考えるときに、具体的にモデリングさせていただいているのが、リブセンスの村上太一社長です。

BP社のロングインタービューの2日め。

インタビュアーが「お金ではないの?」の突っ込みに対して答えているところをお楽しみください。

(2)

古市:村上さんに対して担当編集のYさんから「起業して社長になりたいという背景には、お金や物欲、名誉欲といったものはないのか?」という叫びが出ました。

編集Y:一言で言えば「成り上がりたい」という、ルサンチマン、矢沢永吉っぽさが、村上さんに全然感じられないので「ホンマかいな?」と、アラフィフ世代には思えるんですよ。

古市:そういう声を意識しつつ、もう少し「起業」について聞かせてもらいましょう。これから起業したいという若い人たちが村上さんの周囲にいると思いますが、どんなアドバイスをしていますか。

村上:人によりけりですが、「なぜやるのか考えろ」が一番よく言うアドバイスかもしれません。起業したい理由が曖昧だと難しいですから。

編:そこからして、もう「お金」じゃないんですかね…。

村上太一(むらかみ・たいち)
リブセンス社長。東京出身。小学生のころに起業を決意、高校在学中に準備を開始し簿記二級、情報処理技術者試験などを取得。早稲田大学政治経済学部在学中、リブセンスを設立。求人ウェブサイト「ジョブセンス 」を立ち上げる。同社を創業2年で黒字化させ、当時史上最年少の25歳1か月で東証マザーズに上場を果たした。

村上:何を実現したいのか、という強い意志と目的からすべてが始まる。組織は大事だよ、サービスも大事だよ、とアドバイスできることはいろいろあります。

でも、それはゴールが明確にあってこそ生きるアドバイスで、あくまでも付随なんです。ゴールがわかっていない人にアドバイスはできない。なぜやりたいか。どういう思いでやりたいか。それをしっかりと明文化しておいたほうがいいと思います。

古市:それはご自身が起業したときに戸惑い、右往左往した経験があるから言えるアドバイスですか。

村上:そうだと思います。感情で一瞬、押しつぶされそうになっちゃうことはあるし、苦しいからやめたい時だってある。人間ですから、ああ大変だ、と思うほうが健全だと思うんですよ。

感情と言葉で支え合う
村上:だけど、明文化しておくと、弱気になった時、逃げにくくなる。逃げにくくなるという表現はちょっと強いかな。明文化しておいた言葉で自分自身を補助して鼓舞する、というか。体は弱っているけれど、でもなんとか持ちこたえられる指針になる。右脳は「やめたい」と言っているけれど、左脳が「右脳よ、頑張れ!」と励ますみたいな(笑)。

右脳と左脳のキャッチボール。それが大事だと思います。感情から思ったことは言葉にするし、逆に言葉から感情を高めることもする。

古市:今までやめたくなった瞬間というのは、先ほども話に出た、起業1年目ですか。

古市憲寿さん(プロフィールはこちら )

村上:そうですね。先が見えなくて。受験勉強なら、今どこの段階で、何をやれば成績があがりそうってわかるじゃないですか。

古市:わかりますよね。

村上:起業して、かつ、今までなかったビジネスモデルをやっていこうとすると、その「業績があがりそう」の拠り所がないんです。頑張っても成果が出るかどうかはわからない。ただひたすら頑張らなきゃいけない。それが大変でした。

古市:村上さんはその時期を乗り越えた。だけど、1年目のその頃は、言葉や理念を見つけ切れていない段階だったんですよね? そうしたなかで、それでもやめずに進められたのはなぜですか。

村上:それは先ほど言ったように、走りだしたら……。

古市:ちょっと息がきれたからって走ることをやめるわけにはいかない、ですね。

村上:というのもありますし、それと、理念については「なかった」わけではなく、正確にいうと「言葉にしていなかった」という感じに近かった。

思いは強くあったけれど、それを言葉にしていなかっただけだから、走ることができたのかな、と。

古市:ああ、なるほど。村上さんは起業するにあたって、大学の起業コンテストといった制度をいろいろ活用されているようですが、どんなものを活用されましたか。大学のコンテストに優勝すると援助などあったと思いますが。

村上:大学、援助してくれたらうれしかったんですけどねえ(笑)。オフィスは1年間無料で貸してもらいました。

古市:では、その他に使った仕組みや制度はありますか。

村上:制度や仕組みとは違いますが、ベンチャーキャピタリストの方にビジネスプランを持って話に行きました。企画書を見ていただいて、どう思われますか、とアドバイスを求めました。プロ目線でのアドバイスを無料で言ってくれるんですよ。いろいろなところをめぐってフィードバックを得ていました。本当にありがたかったです。

ビジネスプランは100個くらいありました
村上:でも当時、私がダメだったのは、これってきっと「起業家あるある」だと思うんですが(笑)、「いいね」と言ってくれる人は「ああ、やっぱりこの人は分かっているな」と思って、「ダメだね」と言う人は「こいつ、何もわかっていないな」と思っちゃった。自分の思い込みがハンパなかったと、後から気づきましたね。

古市:ははは、それは「起業家あるある」なんですね。でも結局、VCの資金は入れなかった?

村上:入れなかったです。いや、入れていただけなかった、というのが正しいのかもしれません。

古市:それにしても、そうやって渡り歩くのはストレスになりませんでしたか? まだ大学生でしょう。

村上:私は何も持っていませんでしたから、失うものはないし、ストレスは感じなかった。たぶん、大学で変な授業を聞いているほうが、よっぽどストレス。

古市:ご自分の意志の強さと同じレベルの仲間がいたから、心が折れなかったというのはないですか。

村上:それはあります。でも、ベンチャーキャピタリストの方々とのヒアリングは、心が折れそうになるどころか、面白かったです。自分がじっくり考えて「これはいいだろう」と思っていたものに、「こう直したらいいんじゃない?」と適切なアドバイスをいただけて、健全な議論ができるんですよ。すごく楽しいです。

古市:でも、そのビジネスプランは、リブセンスの事業内容でなくてもいいわけですよね。「社長になりたい」が先にあるのだとしたら。別のビジネスプランでもいいし、こっちのプランのほうがいいかも?と目移りはしなかったんですか。

村上:ああ、それはありました。その頃にはすでに100くらいのビジネスプランを持っていましたから。

古市:求人マッチング事業の「ジョブセンス 」以外にもいろいろあったわけですね。

村上:本当にたくさんのプランを出してみました。くだらないものも含めて。

古市:そのたくさんのビジネスプランの中から、良いものをブラッシュアップして、結果的に今のジョブセンスにつながる仕組みが残った、と。

村上:はい。思考する段階で、どれだけのパターンを考えているか、というのは、起業を目指す人に必ず聞きます。

つまり、頭に描くシナリオのなかで、新規事業で妄想したものを人に伝える時、このパターン、別のパターン、とパっといろんなパターンが出せるかどうかが大切です。どんな事態があり得るか、さまざまな質問を浴びせても、全部答えられる人は相当考え抜いている人です。

「それは考えていませんでした」は、考え切れていないんです。何かを本気でやりたい時は自然と考えちゃいませんか? 多くの場合は、シャワーを浴びながら、夜ご飯は何を食べようか、と考えるのかもしれません。でも、私はシャワーを浴びながら、やっぱり事業について考えているんです。ずっとそのことを考えたり、話したりしている。だから、パッと指摘される程度のことは、全部事前に調べてあります。

古市:最善から最悪まで、両方のパターンはもちろん、いろいろなパターンを全部想像しておく。

自分のために稼ぎたい、という意識が希薄
村上:そうですね。でも、最悪のパターンを考えるのは苦手です。うまくいっているパターンを考えがちです。

古市:経営者の中には、最悪のパターンを考えるとそういう悪運を引き寄せちゃうからと、考えない人もいますよね。それはビジネスモデルを考えるのが好きで、お金儲けが好きというのともちょっと違うんですよね。

村上:お金儲けも一応しないと長続きしませんから、やらなきゃ、と思っていましたが、私は最初は売り上げとかもいまいちよくわかっていなかった。お金儲けの前に、ユーザーにちゃんと使われるサービスを、という軸がありました。でも、給料が払えなかったりしたらダメだから、意識しないといけないですよね。

私の感覚では、社長として仕事していると「何が大切か」が常に変わる感じがします。ユーザーが第一。でも、お金も大事。その間をぐるぐるまわりながら、らせん階段上にどんどん上がっていって、同じことでも、考え方や感じ方が変わってくる。

古市:お金儲け第一、というわけではない?

村上:そうだったんですが、しっかり稼がなければダメだ、と思う時期もありました。

古市:稼がないと会社も現状維持できませんからね。今現在のフェーズはどうですか。

村上:今は、上場もしましたから、しっかりと成果も出さなきゃいけない、という思いが強いです。

古市:ただ、稼いでも、それは自分のためのお金ではない?

村上:そうですね。

編:うーむ、やっぱり金銭欲がドライバーじゃないのでしょうか。

古市:村上さんはよく「自分の中でお金を使いたい」といったことを、インタビューで答えていらっしゃいます

が……。

村上:「使いたい」は、お金で苦労はしたくないということですけれど、無駄に使いたくはない。コストパフォーマンスを意識して、費用対効果が良いものにお金を使いたい。でも、なぜか私はケチっぽく思われているんですよ、世の中に(笑)。

古市:まあ、この本(『リブセンス<生きる意味>: 25歳の最年少上場社長 村上太一の人を幸せにする仕事 』/日経BP社)を読んだら、そうとしか思えないですけど(笑)。

ケチじゃないです!ベッドなんて100万円ですよ
村上:ケチではないんですよ! ここはちょっとリブランディングしないといけないところだな、と思っていて。

古市:じゃあ、ちゃんとここでそこを強調してください(笑)。

村上:たとえば、家のベッドにはかなりこだわりました。

古市:どれくらいのお値段ですか。

村上:100万円弱です。かなり高いですけれど、仕事をするうえで、睡眠は大事でしょう? ぐっすり眠れたら寝る時間も短くできて、もっと他のことができるし、体も痛くないほうがいい。となると、たとえ値段が高くても、良いベッドはコストパフォーマンスがいいわけです。

古市:使うところには使うわけですね。今も部屋は狭いんですか?

村上:はい。

古市:この本には、8畳ワンルームと書いてありましたが、さすがに今はもう少し広いですか?

村上:もうちょっと狭くなっています。

古市:ええっ!?

村上:会社を移転した目黒に引っ越したから……。

古市:さらに狭くなっているんですか?

村上:目黒には物件がなかなかないんですよね。

(「いいえ、社長、探せばあります!」と広報さん)

古市:ツッコミが入りましたけど……。

村上:でも、あの、やっぱり高いんですよね……。

古市:もっと広い部屋に住みたい、といった願望はないんですか。

村上:うーん。

100万円のベッドは、大きさより厚み
古市:想像すると、100万円のベッドは大きいと思うんです。部屋がベッドで占領されていませんか?

村上:いや、セミダブルなので大丈夫です。厳密にいうとですね、分厚いんです!

古市:ああ、なるほど(笑)。

村上:そうなんです。分厚いベッドなんです(満面の笑顔)。

古市:ちなみに、どちらのベッドですか。

村上:レガリアというブランドですね。

古市:ベッド以外で最近、個人的な大きな買い物は何かありますか?

村上:うーん、思い浮かばないです。

古市:たとえば、スーツはどこのブランドで買っていますか?

村上:あ、スーツはブランドとか気にしなくて。でも、広報的に「しっかりしろ」と言われてオーダーに行きました。

古市:オーダースーツですか。

村上:(広報さんに)どこだったっけ? ああ、そうか。銀座にある、知り合いから紹介されたお店です。

古市:今日着ていらっしゃるスーツもオーダースーツ?

村上:したやつです!

古市:スーツには結構お金をかけますか?

村上:ピシっとしました。

古市:全身でおいくらくらいかかっているんですか。

村上:10万円くらい。そこまで高くないです。

古市:そう、10万円のスーツは安くはありませんが、ものすごく高級スーツというわけでもないですよね。

僕は自分が幸せになろうと思ったら、たとえば良い服を着るとか、良い部屋に住むとかが、やっぱり手っ取り早く幸せになる方法かな、と思ってしまうんですが、村上さんはそうした欲望はない?

消費や居住空間にお金を掛けても…
村上:私は消費から喜びを感じないですね。

古市:では、食べ物はどうですか?

村上:食べるのは好きなんですよ。食べ物には結構使っているほうかもしれないです。

古市:おいしいものを食べることにはお金を使っている。

村上:昨日はお子さんが生まれた社員とお祝いを兼ねて、おいしい店に行きました。費用が高いお店は、経費ではなくて私個人の支払いにするのが私のルールなんです。

古市:何を食べたんですか。

村上:お寿司です。かなり良いお店でしたよ。でも、お祝いですし、おいしかったですし、コスパはいいと思います。

古市:なるほど。良いホテルに泊まったりはしますか?

村上:家と同じで、居住空間には特には……。だから、泊まらないです。最近、宮崎のアラタナ という会社に出資したんですが、宮崎に出張した時はスーパーホテルというホテルに泊まりました。

古市:スーパーホテル?

村上:あそこはサンキュッパでした。4千円しないんですよ。それで話がちょっとずれますが、スーパーホテルさんがクオカード応援プランみたいなのをやっていて。

古市:ああ、そういうプラン、ありますね。

村上:泊まるとクオカードがつく。ああいうプラン、よくできていますよねえ。

古市:そうですね。経費で泊まってクオカードがもらえる、すごく良いプラン。

村上:ですよね。

編:社長が盛り上がるネタがクオカード…

古市:車はどうですか。

村上:車は持っていないです。

古市:免許は?

村上:免許は持っています。

古市:免許は持っているけれど、車は持っていないんですね。

村上:怖いというか、運転が下手というか……。

古市:ああ、それは僕も同じです(笑)。僕も免許は持っているんですが、車は怖くて乗れないです。

村上:車はあると便利だとは思いますけどね。

古市:買うとしても、スーパーカーやスポーツカーに乗ろうとは、あまり思わないですか。

「ブラックカード」は「だらしない人アピール」
村上:助手席に乗せてもらったことはあるんですが、あの、乗り心地がちょっと……。それにスポーツカーって、都内で走る用の車じゃないから。

古市:そうですよね。まったくもってその通りなんですけれど。

でも、それでも人は自分の顕示欲で、自分はこれだけできるということをスポーツカーに乗ったり、高い葉巻を吸ったり、高い服を着たり、いろいろな部分で誇示しがちだと思いますが、そういう系の趣味はあまりないですか、本当に?

村上:ないですね。たとえばブラックカードと呼ばれるクレジットカード。あれは年会費15万円くらいするんですよね? あのカードは翻訳すると「俺、すごいんだぜアピール」になる気がします。でも「俺はお金を使うのがだらしないぜアピール」になっているんじゃないかなと(笑)。もちろん、必要から上限額が低いと困るという場合はわかりますけれど。

古市:うん、ただのアピールですよね。

村上:私は女性だったらちょっとひいちゃうと思うんですよ。結婚するとか考えた時に。

古市:金銭感覚、この人大丈夫かな、と思っちゃうんですね。それなら、年会費無料のカードのほうが安心できる、と。ちなみに今、何をお使いですか。

村上:一見、ブラックカードに見える「リーダーズカード」というのがあって、これがすごいんです。ポイントが1.8%。「Amazonポイント」還元ですが、1.8%ですよ!? 他にもポイント還元率で対抗しようとしているカードはありますが、1.8%超えはなかなかないです。

古市:へえ。ポイント還元率もちゃんと計算して、一番コスパが良いクレジットカードを選んでいるんですね。

村上:クレジットカードはデザインがみすぼらしいと持つ気がしませんが、これはデザインも悪くない。

古市:基本的にそんなふうに、常にコスパを考えて暮らしているんですね。

村上:コスパというより、効率性。

古市:あ、効率性。

「効率欲」が村上社長を動かす
村上:カードは効率的で、消費者有利の仕組みだから、使ったほうが得です。Suicaのチャージもカードでするし、コンビニでもカードを使います。

古市:村上さんは資産を少なくとも額面上はすごく持っているわけじゃないですか。それでも細かいポイントとかが気になるんですね(笑)。

村上:うーん、効率的にしたい、というだけなんですけど。

古市:それは「お金をためたい」わけでもないんですか? あるいは単に「お金を使いたくない」んですか?

村上:ムダ使いしたくない。ムダはしたくない。それだけかなあ。

編:「お金持ちになりたいとは思わないけれど、無駄遣いはしたくない」ですか。金銭欲より効率欲? うーん、本当に私たちが出会ってきた起業家とは世代が変わっているなあ…。

(3)(4)と続きます。